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総人からの挑戦状 〜院生が提示する新しい大学教育のカタチ〜

2017/05/29 13:52 公開
profileあーさー

院生から大学教育を変える!京都大学総合人間学部、人間・環境学研究科発の院生企画「総人のミカタ」。様々な学問の「見方」を提示して、学生の「味方」になろうとするこの企画の目指す先とは……

あなたは今の大学の講義に満足していますか?
もし満足していないなら、どうしていますか?
講義をさぼってサークルに行く?それともアルバイトに精を出す?

でも、ほかにも選択肢はありますよ。
自分の手で、講義をおもしろいものに変えていけばいいんです。
しかし教員ではなく学生が大学の講義を変えるって、どうやって?

実は、京都大学総合人間学部(総人)にそういう活動をしている人たちがいるのです!
今日は院生が行う模擬講義企画「総人のミカタ」代表の真鍋さんに取材してきました。


〜プロフィール〜
京都大学大学院人間環境学研究科共生人間学専攻博士後期課程1回生
真鍋公希さん(以下、真鍋)

「総人のミカタ」とは?

――ズバリ、「総人のミカタ」ってなんですか?

真鍋「人間・環境学研究科(総人の大学院)で文系から理系まで多種多様な学問分野を専攻している院生の僕たちが、主に総合人間学部の学部生に向けてリレー形式の模擬講義やディスカッションを行う企画です」

――院生が学部生に講義ですか!確かに総人だけに、すごく幅広そうですね。

真鍋「そうですね、僕は社会学や映像を研究していますが、他のメンバーの専門だと心理学、哲学、認知言語学、数学、発達科学、政治学、日本史、文学、地球科学、物性物理……」

—―ちょっと待ってください!どんだけ幅広いんですかっ!

真鍋「それがこの企画の一番いいところなんです」


総人らしさ全開のこの企画、一体どんな内容なのか見てみましょう。

実際の様子

総人のミカタは毎週5限に総人棟1102教室で行われています。
1時間ほど院生が講義したあと、残りの30分は学部生と院生がいくつかのグループに分かれてフリートークをするという流れです。

①講義
今回受けたのが政治学が専門の杉谷さん(D2)の「選挙と政策決定」でした

・私たちは何を考えて、選挙の投票をすればいいの?
・民主主義の危うさはどこにあるのか?

といった難しいテーマでしたが、非常に分かりやすく面白かったです。

さらに、学部生から「世襲制でない独裁政治の何がいけないの?」といった根底を問い直す意見も飛び出るなど、双方向の熱い議論が交わされました。

毎回違う専門の院生が、違う分野の話をしてくれる、非常にワクワクするものです!
②フリートーク

お菓子やジュースを囲みながら雑談するといったゆるい雰囲気です。

研究以外にも、進路の悩み、サークルや大学生活のことなどいろんな話題について話していて、専門がバラバラなために今まで交流が少なかった上回生や同級生との繋がりもできているようです。

1回生に、この企画について聞いたところ

「すごくいい進路の参考になる」
「大学院の雰囲気が分かる貴重な機会だと思う」
「まだ1回生で何をしていいか分からなかったけど、一つ一つ分野を知ることができて興味のあるもの、ないものが区別できるようになりそう」

などの意見をもらいました。


進路で迷いがちな総人生にとって、こんな場があるのはとてもうれしいですね!

院生が授業??なぜこの企画を?

—―ところで、なぜこの企画を始めようと思ったのですか?

真鍋「総人っていろいろな選択肢がある分、どうやって学系(学部内のコース)やゼミを決めたらいいかわからない人って多いじゃないですか。専門を選ぶ指針になる講義やガイダンスもないし、そもそも誰に相談すればいいのかもよくわからないですよね」

—―間違いないです、僕も4回前期までブレブレの総人生でした笑

真鍋「だから学部生が進路を決める時のヒントになるような、この分野ではこんな考え方をしますよ、こんな研究ができますよっていうのを伝える時間が、総人には必要だと思うんですね。正直、僕も欲しかったですし」

—―先輩だから分かる後輩の悩みや迷い、ものすごくよく分かります!!僕もこんな講義が欲しかったです笑

真鍋「フリートークも同じです。僕たち自身がいろんな紆余曲折を経て今の研究をしているので、迷っている人の気持ちがよくわかるし、学部生にとっても先生より院生の方が身近で相談しやすいですよね。だからなるべく気軽に相談できるように、後半の30分はざっくばらんに話をする時間にしています」

—―だからこそ「総人のミカタ」なんですね!

院生側のメリットは? ボランティア?

—―でも、博士課程だと忙しかったりしませんか?

真鍋「そうですね、僕の場合は講義の準備だけで10時間以上はかかりましたし、自分の研究が忙しい時期はなかなか時間が取れません。なので、メンバーで協力しながら上手く分担してやっています」

—―大変ですね……後輩のためとはいえ、ボランティアみたいなものですよね?
—―なかなかモチベーションの維持が難しかったりしないんですか?

真鍋「実はただのボランティアというわけではありません。講義を通して、僕たちも多くの事を得ることができるんです

—―それは具体的にはどんなものなんですか??

真鍋「実際に講義をして、学部生や他のメンバーから意見をもらうことはすごく貴重な経験なんです。総人では「研究を他者に語る」という教育課題を設定していて(人環では特に「教養教育実習」と言って)、指導教員の全学共通科目の時間を使って模擬授業をやっていますけど、同じ模擬講義でも、先生が担当する15コマ中の1コマと、題材や目的を自分で一から考えて計画した1コマでは、やっぱり得られるものが違いますよ」

—―確かに、指導教員の講義の一部だと内容や進め方で制限がありそうですけど、「総人のミカタ」だと自由に計画できますね。

真鍋「もちろん総人の教育課題には共感していますけど、正規の模擬授業だけでは物足りないというのが正直なところです」

—―だから自分たちで機会を増やすために、講義するということなんですね。

真鍋「しかも他の院生の講義やレジュメの作り方も見られるので、その点でも学ぶことが多いです。講義の後には反省会を開いて、お互いに意見を交換することにしています」

—―様々な分野からお互いに指摘し合うってすごくいい刺激になりそうですね。

なぜ「研究を他者に語る」のか?

――でも、そもそもなんで「研究を他者に語る」ことが必要なんですか?

真鍋「順を追って説明しますね。まず、2012年に国際高等教育院構想といって、総合人間学部が事実上解体されかけた事件があったことはご存知ですか?」

――はい、知っています。自分の学部がなくなるかもしれないと、かなりショッキングな事件でした…。

真鍋「この事件がきっかけで、総人の存在意義について考えるようになりました。それから総人だけでなく、大学全体が今、とても厳しい状況に置かれていることへの問題意識もあります。2015年には文系学部廃止騒動もありましたよね?」

ーー確かに、最近だと「役に立たない」研究は不要という風潮がありますね…

真鍋「短期的な有用性でしか研究を評価しない傾向はもちろん良くないですが、この状況は、大学のあり方が社会的に問い直されているといいかえることもできますよね」

ーーそれは、社会から学問界に対する、一見「役に立たない」ような学問がなぜ必要なのか、という問いかけですか?

真鍋「はい。そしてこの問いに対する有効な回答の一つが、「研究を他者に語る」ことであり、その中心的な活動が大学での教育だと僕たちは考えています」

――(酒井教授はなまこ理論で説明しようとしていますが、真鍋さんは、)研究一辺倒ではなく教育にも力を入れることで社会に応答する、ということですか?

真鍋「そうです。教育を通して研究のおもしろさや学問的な「モノの見方」を伝えて、学問の必要性について共通了解をつくっていくことが、これまで以上に必要なんじゃないでしょうか」

ーー学問が「役に立たない」と思われている現状を変えるために、「研究を他者に語る」ことが重要だということですね。

総人だからこそ!

ーーでは、そんな取り組みを総人からスタートさせることにどんな意味があるんでしょうか?

真鍋「人に何かを伝えたいとき、内容は簡単であっても、その前提となる知識を相手がもっていないと話をするのが難しいですよね。逆に内容が複雑でも、ある程度前提が共有されているとスムーズに伝えることができます。これを大学教育に置き換えると、ある分野の学生だけが参加する講義より、いろいろなバックグラウンドの学生が参加する講義のほうが、前提知識がバラバラな分、うまく内容を伝えるために全体の構成や話し方を工夫する必要があるということですよね」

――前提知識がバラバラというと、まさに総人のことですね。

真鍋「はい。理学部や文学部のような専門化された学部の場合、学年が上がるにつれて専門外の「他者」と対話する機会は少なくなってしまいます。でも総人では、常に他の専門の人にも伝わるような方法を考えて講義をする必要がありますよね。こうした環境だからこそ、伝える力を高めることができますし、自分の研究を見つめ直すきっかけにもなります

――バラバラな総人の良さはそういうところにあるんですね!

真鍋「総人で掲げられた「研究を他者に語る」という教育課題は、こうした総人の特徴からも生まれています。先ほども言いましたが、僕たちはこれにすごく共感しています。でも新しい取り組みなので、学部として一気に変革することは難しい。それなら僕たちがこの企画を通して、ボトムアップで大学の講義を変えていけばいいと思っています


総人だからこそできる大学教育のあり方を手掛かりに、現在の学問・大学が置かれた状況に応答しようとする「総人のミカタ」の今後が楽しみです。

「総人のミカタ」の授業日程

場所:総合人間学部棟1102講義室(京都大学吉田南キャンパス)
日程:毎週木曜5限(16:30~18:00)

6/1 萩原(発達科学) 人間発達の魅力へのせまり方~発達障害児との遊びを見つめる~ 6/8 萩原・真鍋 (発・社)方法の違いと見方の違い――社会学と発達科学 6/15 杉谷(政治学) 選挙と政策決定II 6/22 須田(解析学) 無限と連続 6/29 近藤(地球科学) 地球のすがたを知る~地表から地底まで、我々の足元には何があるのか~ 7/6 近藤(地球科学) 地球のなりたちを知る~地球はどのように生まれ、進化し、生命を育んできたのか~ 7/13 近藤・杉谷・須田 ディスカッション2

6/8と7/13には複数の院生による学際ディスカッションをします。
各学問分野のどこが似ていてどこが違うのか、一緒に考えましょう。
果たしてどのような化学反応を見せてくれるのか、非常に楽しみな企画です!!

総人生1回生はもちろん、上回生や他学部の学生まで幅広くお待ちしています。
木曜5限は総人棟1102、是非参加してみてください♪

編集後記

総合人間学部は溢れるほどの研究分野に囲まれ、何を勉強していいか分からなくなります。これは、総人の弱さでもあり、最大の強さでもあるのだなと改めて感じました。自分が総人1回生の頃、「総人のミカタ」のような企画があればよかったなぁと羨ましくも思います。総人卒業生として、心からこの企画を応援しています。

〜最後に〜
「変人講座」しかり、今や敢えて発信しなくてもよいものを発信しなくてはならなくなってきています。すなわち、学問の必要性を説明しなくてはならない状況まで追い込まれていること、それ自体に私たちは強い危機感を覚えなくてはならないでしょう。