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ベナン系フランス人陶芸家の「信楽焼」【アフリカ現代美術シリーズ3】

2018/06/25 14:51 公開
profileなかむら

パリで出会ったベナン系陶芸家が信楽にやってきた!!新しい陶芸の可能性を取材する中で見えてきたのは、信楽を国際アート都市にする「陶芸の森」のイノベーションだった…。

アフリカの現代美術シリーズ、第三弾は「信楽焼」!

こんにちは。今回でもう第三弾となりました、アフリカ現代美術シリーズ。
前回はパリでの最新のアフリカアートに触れる記事をお届けしました。
これらの記事でお伝えしたのは、アフリカ美術には、実はひとくくりにするにはあまりにも多様なスタイルがあること。
そして、今まさに進化し続けていること。
新しい作品に出会う度に、「えっこんなのもあるの?!」とびっくりするのがアフリカ現代美術の面白みなんですね。
さて、今回のテーマは「信楽焼」。
そう、「信楽焼」

「えっ信楽って、あの信楽…?」

第二弾でご紹介した、ベナン系フランス人である陶芸家・キングのインタビューをしていた時でした。
「次は信楽に行くんだよね」
…パリでアフリカ現代美術の調査をしていて、まさか「信楽」という言葉を聞くとは。

出典:upload.wikimedia.org

(パリで聞く「滋賀」っていうニュアンスのちょうど面白い感じ伝わりますか…?伝われ!!)

信楽が最先端アート国際都市に。

なんでも、信楽陶芸の森という施設で、アーティスト・イン・レジデンスに参加するということ。
アーティスト・イン・レジデンスというのは、一般に美術館などの芸術施設にアーティストが滞在し、制作活動を行うプログラム
開催する施設が持つ文化資源を利用することで、その土地の文化振興や国際交流を図るものです。
正直「信楽ってたぬきを作り続けて衰退していく田舎」というイメージさえ持っていました。
まさか、そこで「アーティスト・イン・レジデンス」…?
「日本の伝統工芸には後継者が不足していて存続の危機が…」というような話を総合の時間とかに聞いたことはありませんか…? 私はあります。ゆとり世代なので。
ちなみに京都の「ゆとり世代あるある」には、清水焼とか西陣織の体験見学があったりするのですが、滋賀では信楽焼だったりするんでしょうか。
しかし、この取材で、あの種の授業とかで紹介される、「どこか行き詰った感」「ちょいダサなイメージ」をまるごと覆す、緻密にデザインされた文化政策が信楽でいきいきと根付いているシーンを目撃しました。
今回は、キングの作品とそのその制作を支える「信楽陶芸の森」をご紹介します。
焼き物の力で、世界最先端の才能ダイレクトに繋がる信楽のダイナミズムを実際にこの記事で見て、感じてください!

たぬきだけの街ではなかったが、たぬきはやっぱりたくさん居た

キングがレジデンスで制作した作品の展示会が行われるということで、「たぬき」の置物で有名な信楽焼発祥の滋賀県の工芸都市、信楽を訪れました。
そこに、抜群におしゃれなギャラリーが!

実はこの会場 、Fujiki-Galleryは藤喜陶苑という陶器問屋をリノベーションして造られました。

自由に鑑賞しよう!キングの作品たち

とにかく、まずは作品をご覧いただきましょう。
キングの多彩な作風と陶芸の普遍性を感じられるはず。

個展最終日のキング

この青い作品が、来場者の一番人気だそう。特に地元の高年齢層は、真っ先に近寄って鑑賞するとか。
しかし、キングはなぜこれが一番注目されるのか分からないとのこと。
私は、「この青色は日本やアジアの伝統工芸にもよく使われる色、それに日本人に馴染みのある『お湯呑み』型が親しみやすい・理解しやすい印象を持たせている。」「それだけにキング特有の土をぶつけて作る技法による細かい突起装飾が今まで見たことのない陶芸観を提示していることが伝わりやすいのではないか」と答えました。

金色の魚が飛び回っているようなモチーフも、鯉の滝登りみたいです。
作品の中に物語をイメージできて、鑑賞しやすいかも…?

このピンク色の作品群は、彼の作品の中で王道を行くデザイン。フランスで人気が高い。
ある若い女性の一行はいわく「セレブの家にありそう!」。たしかに。
展示会が原宿とかで開催されたら、これが一番かもしれないと感じました。

このアヴァンギャルドな作品は今一つ人気がないそう。
「狂気的な表現がこどもの落書きみたいで美しくないからかな…」とキングは言います。
私が思うに、来場者に『アヴァンギャルドさ』は伝わっているはず。
でも、『いかにも現代美術』な印象が鑑賞者にとって高いハードルに感じられるのではないかと思います。

こういうぐちゃぐちゃで、恐ろしさを醸し出す表現は日本にもたくさんありますよね。
むしろ怪獣妖怪など古くから日本にある表現の十八番のような気もします。
「サイズがもっと大きければ、そうした民芸やお祭りなどの山車等になぞらえて鑑賞できるし見やすくなるのでは?」など、現地の陶芸関係者の人と話していました。


こうして作品を巡る自由な対話が地域に根付いてゆくのでしょう。

みなさんは、どれがどんな感じで好きですか?

地域に馴染むアーティストたち

昼頃、ちょうどこの3月にレジデンスを始めたアーティスト仲間、Ianさんがギャラリーにやってきました。ちなみに彼はアメリカのオレゴンから。
各国から来たアーティストが滋賀ののどかな町に集い、陶芸を通じて溶け込んでいる日常が感じられます。

この後、お昼ご飯を買いに神社の屋台に行った一幕。 「あんたらイケメンやんか!フェイス!ナイス!」 「お姉さんもかわいいけど二番やわ、あたしの次」 「ベナンとフランスのハーフ?あたしもハーフやねん、大阪と九州の」 「おまけでキムチ付けるかあたし付けるか選んでって言うて」 と強烈な関西弁でまくしたてる屋台のおばさま、いやお姉さまと、ノリよく対応するKingと、けっこう引いているIan

信楽に世界から人を集める「陶芸の森」

作品展を見終え、いよいよレジデンスの開催主体であり制作の現場、滋賀県立陶芸の森へ。
滋賀県立陶芸の森は、滋賀から世界へ情報を発信することを目的に平成2年6月に開設された総合文化施設。一般向け・こども向けの研修ややきもの体験から、学術的な研究をサポートしたり、博物展・プロの作品展の開催まで幅広い活動が行われる。後でも触れる通り、かなり専門的な制作設備を整えていることが、強みの一つ。
アーティスト・イン・レジデンスは、短期のイベントとして行われることも多いのですが、
信楽陶芸の森では、1992年のプログラム開始以来、年中アーティストを受け入れています。
さらに、繰り返し利用できるのです。
実際、国際的に人を集め、リピーター率も高い。つまり、レジデンス自体がある意味恒久的な芸術施設として機能しているんです。

出典:www.sccp.jp

私もキングの取材をする中で、日本人を含めカナダ・アメリカ・ドイツ・香港など、陶芸の森に訪問・滞在するアーティスト計10人ほどに会いました。

香港からやってきたKevisとグアテマラから来たEstefaniaとKingは、3人で京都に遊びに来てくれた。

こうした「横のつながり」を重視し、さらに近年は「私的に知り合う」という交流の次元を超え、施設同士の公的な交流の強化に乗り出しました。
つまり、陶芸の森から海外に行くという留学のような道筋が公式に作られ始めています。
ただのプログラムじゃない、アートインフラとしての機能がますます強化されていくようです。

国内トップ作家に学べる

陶芸の森レジデンスの人気の秘訣はこの施設自体の持つ、アーティスト育成資源の強さ。
設立当時は、「滞在型共同工房」と呼んでいたそうですが、「大学など既存の教育機関ではできない、やきものの研修をする」方向性を取っていたとのこと。
そのような由来を持つ陶芸の森は、現在でもレジデンスに、国内のベテラン有名作家を招聘し、彼らが制作をするとともに、滞在アーティストを指導してくれるのです
私が訪問した時は、備前焼の矢部俊一氏が指導員として滞在されていました。

出典:www.kukoku.jp

矢部先生の作品。個展ポスターより

矢部さんは、お祖父様の代から続く備前焼のお家のご出身でありながら、大学では彫刻を専攻され彫刻家としてのキャリアも持つ方です。現在は、現代陶芸家として国際的に権威のある「TEFAF」アートフェアに参加する唯一の日本ギャラリーに所属し、なんと大英博物館にも作品がコレクションされています。
まさに、伝統の確かな技法を背負い、国際的なアートについての感覚にも明るい技術と発信力を兼ね備えた作家のおひとり。
こうした方に指導を受けられると、世界に発信する芸術として他国の最先端に負けないクオリティで判断され、さらに日本でしか絶対に知ることができない技術や材料への知識も学べます。
なるほど、海外からのレジデンス希望者が続出する訳です。

「キングは作品もすばらしいけれど人柄がもうすごく素敵なんだよ、絶対アーティストに必要な資質なんです。」と語る矢部さん(左)と、レジデンス中の作家・原菜央さん(右)

あの奈良美智さんもゲストアーティストとして8回も陶芸の森に滞在しています。

出典:www.momastore.jp

今年も滞在されています

こうした「指導する側」、世界から引く手あまたの作家たちも陶芸の森のリピーターになる理由があるんです。それは、この施設自体の設備の強さにありました。

最強の製作環境

そう、陶芸の森一番の強みは「ここでしか作れないものがある」こと。

製作部屋と窯が近いので大型の焼き物の製作がカンタン。さらに、制作部屋も窯も24時間使える
こういう設備を完備している施設は国内でもめったにないそう。
そして、滞在する宿泊施設と制作部屋・窯や釉薬の部屋が同じユニットにあるので、本当に起きて一分で製作に入る、みたいな集中作業を可能にしてくれるのです。
レジデンスの利用者の50%は日本人であるというデータが提示されています。
つまり、「国内の陶芸家もわざわざ信楽にくるほどの設備が揃っている」ということです。

一人一人のスペース(約9㎡)は自由にアレンジが可能

電気釜の部屋と釉薬を施す部屋

そして現在主流である電気窯・ガス窯だけでなく、信楽伝統の流れをくむ、登り窯や穴窯も用意されているのです。登り窯で焼いた作品を見せてもらいました。
色味の均一性が低く、深めの色になるんですね。

キングの作品、東京へ!:製作力と発信力の効果

以上でご紹介した「信楽陶芸の森」が持つ、「地域に根差し世界に伸びる」力は、キングの個展においてもすぐに効果を発揮しました。
今回の大き目の作品群は、キングにとっても新しい挑戦でした。特に一番人気の紺色の湯飲み状の作品は、大きいサイズである上に周りに土をぶつけて装飾を加えるので、かなり重い。
あの作品の存在感、色と合わせた壮大で慎重な印象は、信楽の設備力の産物だったのです。
この個展後、嬉しいことに東京のギャラリーからの買い上げが決まりました!これも信楽のレジデンスが積み上げてきた発信力の賜物!

梱包には、地元の陶芸家かつ陶芸商の方の技巧が光ります。この重たくて小さな突起の多いものをうまく梱包するのは至難のわざ。地域の知恵が世界と結びつく瞬間もレジデンスのすばらしさを感じます

逆に、東京のギャラリーが信楽でKingの作品を買い上げているということは、信楽に行くだけで国際的なアート市場の動向に日本のギャラリーが参画できるということを示しています。

箱も組み立てて…

いざ、東京へ!

まとめ

パリで会ったときにも言っていた、
「僕の作品は現代アフリカ美術であると自分では定義していない。土はユニバーサルなもので、僕は一人の人間
というポリシーをキングは繰り返し今回も口にしました。
彼の信楽での作品からも、この発言の意味内容が感覚的に伝わってきます。
フランスで作った作品に対して、
信楽の土と窯を使った作品には信楽の色が表われて地域の風が香り
しかし作風に共通する軸は彼にしかない唯一無二のものであると。

信楽を後にしたキングはオーストラリアに滞在して個展を開いたあと、再びフランスに戻りました。土を通したキングの冒険と、信楽の進化はこれからも続き、またどこかで道を交えるのでしょう。