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京大医学生が悩む。「答えのない問題」と対峙する方法 〜「ゼロ」から倫理をつくり上げる〜

2018/01/16 12:41 公開
profile文狸

現状の医療教育では教えてくれない、医療現場の「答えのない問題」をどのように学んでいくのか?
京大チャレンジコンテストに企画を採択されたKS-CoM代表が語ります!

孤独死は絶対悪なのか??


――「村には、独りで生き、独りで死ぬことを自ら選ぶ老人もいる。そのような人たちに対して、家を訪れ病院に来るよう促すことは、正義であるとは私は思えない」――

 一回生の夏のことです。医学生である私は、奈良県の川上村という僻地の村に一つしかない診療所で実習をしていました。そのとき聞いた医師のこの言葉は、2年以上経った今でも私の脳裏にこびりついて、片時も離れることはありません。
 その言葉は、ネガティヴなイメージを持って使われる「孤独死」という問題に対して、個々人の価値観の検討をもって取り組まなければならないということを私に気づかせました。

 紹介遅れました。京都大学医学部医学科3年生の外山尚吾と申します。
京都大学医学教育を考える学生の会(KS-CoM)の代表でもあります。
 皆さん、京大チャレンジコンテスト(SPEC)はご存知ですか? 京大チャレンジコンテストとは、「学生自ら『やりたいこと』を応募し、コンテストにパスしたプロジェクトに、京都大学基金が寄付募集を行い活動資金として支給」される京大の一大プログラムです。

 3回目を迎える今回、私たちKS-CoMの「医療倫理に関する対話型フィールド学習の開発」という企画を採択していただきましたので、そのご紹介をさせていただきたく、筆をとりました。

医療における「答えのない問題」を考えるためには

 医師には、冒頭でお話したように、答えのない問題に対峙する瞬間が数多くあります。
 しかし今の卒前医学教育を顧みると、膨大なBio-medical(生物医学)の知識を記憶することに重点が置かれています。そういった知識自体は当然大切なのですが、現状のカリキュラムでは医学生が「答えのない問題」についてあーでもないこーでもないと考え悩みぬく時間はありません。

 人の命を預かる医者が、人の命に関わる重大な「答えのない問題」について考える時間がなくて良いのか、と危機感を抱きました。
 そこで私は「医療倫理」に関した本をいくつか買って読んでみたのですが……
読み終わった2日後にはもう忘れてしまっているような……
入ったそばから全部ダダ漏れして自分のなかには何も残っていないような……
そんな気がしてしまったのです。

特に海外の著書の訳本であったりすると、本を読むだけでは現実感がなく、
①自分事として捉えにくいこと。加えて
②答えのない問題について誰かが考えた跡をなぞっているだけになってしまうこと。
この二つがが原因でした。

 そこで私は、「答えのない問題」を医学生が考えぬくために、「実際にfirst-handな経験を得ることが大切なのではないか」と考えました。
というのも私が孤独死の問題について深く考えるようになったのは、あの強烈な経験があったからです。

実際に行ってみる。話を聞いてみる。空気を肌で感じる。

そういうフィールドワーク的な発想が、自分事とするための一番の近道であり、なおかつ、学生だからこそフットワーク軽くすぐにできるのではないかと考えるようになりました。

深く、まっとうに悩むためには 〜「ゼロ」から倫理をつくりあげる〜

しかしどっかに行けばそれでいいというわけではありません。
私もいわゆる「スタディツアー」的な発想のものに何度か参加したことはあります。

ですが、そのたびに
「いや、それ別にここに来なくてもネットで分かるやん」みたいなことをわざわざ学ぶ不合理さ、
その場で満足するだけの“行きっぱ”になる危険性を孕んでいること
これらのことへの反感を抱いていました。

①現地へ行く前に、調べられることはできる限りたくさん調べ、異なる価値観を持つ他者と意見を交換し考えを深めておくこと、
②行ったあとも、どのように考えが変わったのか、しっかり言語化して対話を通じて昇華する
以上のことが重要なのではないか、と考えるようになりました。

 それで私たちKS-CoMは、答えのない問題に対峙する思考力を鍛えるための学習法を開発し、世の中に発信することができないかと考え、京大チャレンジコンテストに企画を応募したというわけです。

学習法は、具体的には以下のようなステップから成り立ちます。


 「対話」や「フィールドワーク」という概念を人文系ではなく医療の分野に導入すること(もちろん全く新しいというわけではなくて、まだまだ少ないという意味です)。
その二つを相互補完的なものとしてその重要性を強調すること。
これらの点において、十分に新しいものだと考えております。

私たちが目指しているのは、いわば、「ゼロ」から倫理をつくりあげること。

 自分たちの素朴な疑問や感情から出発し、
 他者と言葉を交わし未知の世界に足を踏み入れながら、
 自らの手で答えのない問題を解きほぐしていきます。
誰かが考えた跡をなぞるのではなく、他ならぬ「私」が考えるのです。
私は「あなた」にもそのように考えていただきたいと考えております。

 率直に申しますと、これが確固たる方法論である、とは思っておりません。
 むしろ、自らが勉強していく過程でより方法を洗練させていくことを目指しています。
 そして最終的に、磨き上げた「学びの手法」を、医学生だけでなく「答えのない問題」に対峙する可能性のあるあらゆる学生に発信したいと思うようになりました。

 そこで、ともに考える仲間を探しています。特に医学科生以外の学生を今、切実に求めています!(なにぶん知り合いが少ないもので)

 もともとは医学生の現状について危機感を抱いて始めた企画ですし、扱う予定のテーマは、「ハンセン病」、「戦争と医学」、「社会経済的格差」、「終末期医療・死生観」と全て医療に関係する事柄です。
しかし同時に以上のテーマは、医療だけでない様々な要素が複雑に絡み合った問題であるとも思っています。
医学科生以外の学生にとっても考えがいがあって、今はまだ見ぬ問題に対峙できる知性を鍛えるために有用であると思います。

 これらのテーマを聞いて、どれか一つにでも面白そうと思う学生の方は、是非ともご連絡ください! 
mail:shogo106.outmt.bunri.2@gmail.com
 また、最後になりますが、寄付の募集は1/31(水)までとなっております。もしこの記事を読んで共感してくださる方がいれば、ご支援していただけますと望外の幸せです。下のHPから簡単にできます。